ROBERTA FLACK
"Capter 2"
核のストレートな表現
[2004/11/28]

この歌を聴きながら、痛みの無い底へ垂直に降りていく
結局、どちらの言葉が相応しいのか分らなかったから、こうやって両方書くことにした。そして自分の持ってる表現体系の粗さを痛感してた。。相応しい言葉ってのは、使える言葉の数で決まる訳じゃない。組み合わせの独創性の方が高い。それは村上春樹の小説を読みながら、よく感じてた。けど、これだけ削り取った空間は言葉の組み合わせと馴染まない。だから、真に必要なのはクリティカルな単語だけれども、最初は《底》としか感じなかった。

それぐらいに感情のフリルがない
P2S2H2はかなりどん底の歌が好き。もちろん痛みや苦しみが好きな訳じゃない。物事の本質は底じゃないと手に入らないと思っているから。仕事だろうと恋愛だろうと上手く行ってる時は、「次はどのお客さんに提案しようかな?」とか「今度の休みは何処に遊びに行こうかな?」とか考えて、それはそれで凄く楽しい。けど、そこにはクリアな核は無いと思う。状況が悪くなるにしたがって、「進む」か「引く」か「耐える」を決断しなくちゃいけない地点に追い込まれる。その地点こそに、一番核があると思う。だから痛みや辛さを見ているようで、実は見て無い。それは取り巻く暴風地帯であって、見ているのは台風の眼にある突き抜ける青空だから。

どれだけ自らの核を掴まえに行けるか
本当のことを言えば、全ての判断基準の奥底にはこれがある。アルバムだけじゃなく人間関係も。どんなに辛い事であっても、底に降り立った瞬間、痛みは零になる。それ位にMaryJ.のMy Lifeの11曲目のインタルードは凄い。あのアルバムだけは、本当のどん底と、痛みが零になった瞬間が納められている。もちろんそこから浮かび上がろうとした瞬間に、再び膨大な痛みに包まれるのだけどね。けど零になった地点を経ていると、その痛みの全てを引き受けられるようになる。そして、その痛みから同じだけの光を導き出せるようになる。


痛み無しに、核に降りることは不可能
ずっとこう思ってた。何故って、そんなの出来た事もなければ、見た事も無いのだから。核だけにしたら、すぐに傷がつくだけじゃん。そんな怖いことは出来ないよ。もちろん喜びや笑顔の極限でも核は出るけれど、それは一人で行ける場所じゃないと思ってる。


このアルバムだけは、痛み無しに核に降り立っている
それが凄く信じられない。けど、そうとしかいいようが無い世界。もしかしたら、痛みを完全にコントロールしているのかもなぁ、、、いや、この叫びには痛みは無いと思う。R&BだろうとSoulだろうとかなり聴き込んできたけれど、やっぱりこの声に痛みは無いと思う。だからこそ聴く側も彼女の核に垂直に降りていけるんだよね。普段は膨大な悲しみがあるから、そんな向かい風をぐぐって行かなくちゃいけない。けど、このアルバムだけは違う。逆に、その垂直さが別の恐怖感を見せているかもしれない。だからこのアルバムを聴いて、いきなりストーンとくる人はかなり凄いと思う。「いい女になりたい人へ」では3名の歌手を紹介したが、

「いい女になりたい人へ - Soul版」は間違いなく本作だろう
MarvinのAnna's Songにせよ、StevieのAll in Love is Fairにせよ、本HPが強力Pushする曲ほど痛みの量が多い。同じ痛みをわずかにでも感じた事の無い人には、かなり聴き込むのが困難な世界だと思う。だから、あんまり気にしないで欲しい。痛みを持たずに同じ地点に来れるのなら、P2S2H2の100倍凄いと思ってるのは確か。だから、実はそれを勧めているのかな(爆 もちろん、男の子なら間違いなくCurtisでしょう。彼の歌は痛みを持たなくても、どんどん聴き込める。

ただCurtisと比べても、本作は重い曲ほどI Love Youって言ってるんだよね、、、それもかなり核の場所で。痛み零で。。
それが全く信じられなくて、数週間前からとことん聴きこんでた。どんな痛みも引っ張りだされない。なのに自分の感情のフリルがどんどん削られていく。これはかなりの嬉しさです。そう言う時点で、オレッチは変人なのかもね。けどね、Calvin Richardsonが言うようにPain it just funny thingなんだよ。古武術に打ち込んでた時は、滝に打たれてどれだけ欲望を抜けるのか確かめてみたかったしさ。物理的じゃない人の痛みなんて、結局は欲から生まれているんだよ。そう断言した上で、やっぱりそれでも好きで、それだから痛くて、、、それが人生ジャン。

「受け留めてもらいたい」「幸せになりたい」を単純に欲と言いたくないが、自分側の話が多すぎるというのは同意になるでしょう。「受け留めたい」「幸せにしたい」とちゃんと思っている限り、関係は終わらないのだから。



特に2:Do What You Gotta Doから凄い。オレッチの聞き取り能力はかなり保証できないが、サビの"My World Sweet Love"の歌いこみが圧巻。

このHeavyさをSweetを受け取れる男なんて、この世にいるのかよぉぉぉ
と、かなり叫びたい気分です。けど、痛みは無いんだよなぁ。3:Just Like A Womanも凄い。"She Makes Love Just Like Woman"の部分が一番かな。Just Like Womanという言葉はSoul Queenの十八番だが、Roberta FlackはJazz寄りの人?で、Donny HathawayやPeabo Braysonとのデュエットの評価は高い。Killing Me Softly With His Songは当時から日本でも大HITして、今でもCMで使われる程だが、このアルバムが一番核を表現してる。それは断言できるな。哲章さんも本作を取り上げてるしね。

4:Let it Be Meも凄い。"don't don't never leve me alone"の部分は確かに切なさが込められているが、傷ついた果ての痛みは無いんだよね。曲の最後のLet it Be Meの部分が一番かな。5:Gone Awayからちょっと雰囲気が明るくなる。ここからB面だからか。けど、6:Until It's TIme for you to Goも凄い。A面の曲に比べると、抑え抑え歌っているけど、最後の方で凄くなってくる。7:The Impossible Dreamも最後の吼えっぷりは鬼レベル。8:Business Goes ON As Usualは確かに哲章さんが贅肉を削ぎ落としたソフィスティケイテッド・ブルーズというだけの締め。本作でのこの感情の重さは確かにブルースなのだが、やっぱり痛みは無い。削り落とす志向性はCurtisとかなり同じだね。そんな意味では、1,5以外はかなり重い曲ばっかり。


この曲を流してると、「話しかけれない程の辛さ」と見間違えられるだろうなぁ。。このアルバムの重さを跳ね飛ばして、「どうしたの?何かあったの?」と聞ける時点で、いい女:MAXでしょう。隣に座って一緒に聴けるなんて、それはこの世に有りえないぞ。。そう思ってしまう程に、核がストレートに表現されている

ずっと核の定義は出来ないと思っていたし、そんなのは有りえないと思ってた。けど、このアルバムを聴きこんで、「痛みの無い底」と言えるようになった。それがこの世に有り得る事を、生まれて始めて知った。

Best盤の正面顔よりもこのジャケの方が好きです。横を見てるけど、正面を見たらどんな視線になるんだろうね。Bestの正面顔よりも凄くなるのは間違いない。こんだけ聴きこんでいるのは、それを追い求めているからか。けど、その表情は未だに見えない。


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