Monica
"All Eyes On Me"
女王への第一歩
[2002/09/24]

「恋愛ってのは彼氏が隣で自殺することもある」という達観を得た女性が歌う歌。そんな意味で本作に期待してた。けど、もともと自身の人生をコントロールする面が弱かったから。それが強すぎるBrandyの逆で、特に2作目を見ると心配してた。このジャケット写真もさ。綺麗に撮れてるけど、これはR&Bのジャケットじゃないでしょう。酷く言えば化粧品のポスターくらいだと思うな。加えて、アルバム買う時に流れてた、Hit中という2:All Eyez On Meのプロモがイマイチだった。

ゆがんだ口角に処理不能な感情を流すのを、人は笑顔とはいわない・・・

Faith Evansの酷い時もあんな顔してるが、どう考えてもあの表情は笑顔とは言わない。確かに、不本意な曲を歌わなくちゃいけないしがらみもあるんだろうなぁ・・・とは切実に思うのだが、そんな曲がなんで売れるのか分からん。そこそこ有名な歌手であれば、誰が歌ってもHitするような気もする。そんな曲を凄いというのか、酷いというのか未だに自分は分かってないのだが。

しばしアルバム見つめながら悩んでいたが、Monicaの新作だからね。ファンとしては選択肢ありません。で、解説読みながら、聴いてました。所々に引用されてるMonicaのコメントがナイス。この世の出来を信じてる面がちらほらしてたのが全部吹っ飛んでるね。「私は若いころからどれだけでもソウルを歌ってこれた」なんてことを言っていたが、そんなの言えるのはMonicaだけでしょう。だから甘い世界観になっちゃうんだよ・・・とずっと心配してた。周囲が自然と道を開けるだけの才能ってのは、やっぱりイイ面も悪い面もあると思う。けど傑作の1作目から、色々生じたもんなぁ。やっと当然の捉え方になったのかな・・・って感慨深かった。とはいっても、あの才能と足して通常になるだけの人生経験ってのもDeep過ぎるんだが。

素で歌ってDeepになる、唱法と人生
1曲目も悪くないのだが、3:U Should've Knownからいきなり山場。アホ男にボールを投げ返すだけの覚悟に満ちてる。これでも直せない男は一生アホでしょう。それ位のレベルです。そんな自身の現実を歌った詞が、唱法だけじゃないDeepさを伝えてる。というよりも逆に、歌は下手になった気もする。MaryJ.の2作目と同じで、飾り気が無いというよりも、のっぺりした感覚。厚みのあるのっぺりというよりも、底の無いのっぺり感は恐怖の対象じゃないかな。まあ、うめき声にフリルをつけれる人なんてこの世にいないと思うのだが。

それでも男性陣の方が見詰め切ってる距離感を感じる。女性はとことん嵌まり込んでるね。そういうものなのかな・・・という気が最近してる。Monica自身も「女性はとことん行っちゃった方が逆にいいと思うわ」なんてのたまってるからなぁ。このコメントがMaryJ.との本質的な差かな。選択肢がなかったMaryJ.の方がDeepだと思うから

Monica自身もPickUpするのが5:I Worte This Song。自殺したその彼を歌ったという話だが、思った以上にリズムがある。何よりも、どこまでR&B-Timeで追っかけていっても、、、

紙を何度も破りながら曲を書く姿
しか浮かんでこない。そんな意味では、潜り抜けた体験をフルに歌っている訳じゃないと思う。あくまで「あそこから一歩踏み出した」というフェーズの曲。そりゃそうだろう、語り得ない事ってこの世にはある。隣で彼氏がピストル自殺するなんて、ぽんぽん曲にできたらこっちも困るから。Sam Cookeを聴くにつけ、「語り得ない辛いことほど、優しさとして表現しなくちゃいけない」と思う。というよりも、それ以外の道が無い。Monicaにも、この先の歩みで見つけて欲しい。これがSoulの真髄だと思うから。

SoulShock&Karlinの作った7:Breaks My Heartも、Monicaが「今の私を理解して作ってくれた曲だから」と言ってるだけのレベル。彼らこそがポスト・Jam&Lewisだと思ってます。未だ超一流ではないけれど、「アーティストを理解する」という方向に歩んでいる。日本語盤のオビでの扱いをもうちょっと上にして欲しい。まあ、ウォーレンの曲をオマケにした点で良しとしなくちゃね。ただ、5曲目と同じで、そこまでの名曲では無いと思いました。

9:If You Ware The Girlの詞の方向性は凄く納得できるんだが、曲が酷すぎると思う。曲として一番気に入ったのは10:What Hurts The Mostです。単なる歌なのだが、一番良さが出てると思う。自身の経験をそのまんまの歌にした曲群も悪くは無いのだが、こんな普通のフェーズを歌って、初めて明確な差が出ると思う。そんな意味で、現時点で掴まえた光がダイレクトで表現されてると思います。11:Searchin' も、これが信仰なんだよな、って思う。そんな意味では、このアルバムを代表するのはこの2曲だと感じました。

ボーナストラックのJust Another Girl は結構イイと思う。Up-Middleの曲をシングルカットするなら、本人もこの曲が良かったんじゃないかな?と思わせる歌いっぷり。どっちかというとネガティブフェーズだから、今のMonicaに合ってる。本人が不本意な2曲目が売れてる事に関しては、そういうものなのかもなぁ、、、と思う。こうやって現実を知って、一歩一歩アーティストとして完成されていくのだろう。結果として、大ヒットということで買った娘達を、そのまま3曲目から連れ込みDeepになってるから。やっぱり入り口は広く、奥は深くでしょう。


で、本題。

一体、Monicaはその男達とどれだけ会話をしたのだろう。どれだけ彼女の意見は通ったのだろう。ついていくしかなかったんじゃないかな、、、そもそも恋人の目の前で死ぬ男は問題外だぜ。死にたきゃ独りで勝手に死ねよ。元々セルフタイトルのアルバムで制作が進められたということだけど、タイトルが変わったのは良かったと思う。これがMonicaの最高傑作になる訳ねーよ。アルバム全体から、「強くて、耐えて、つくして、イイ女」っていう姿が浮かんできて、逆に痛ましい。「私がこんなに好きだったのに自殺なんかしないでよ。女の子の隣で死ぬ男なんて絶対に糞野郎なんだから」って言うのが真の答えでしょう。アホな男は蹴飛ばさなくちゃ。そんな意味ではAngie Stoneのレベルからは程遠い。「蹴飛ばしたら、他の女に行っちゃう」なんてのは「ハイヒールを投げつけて、一生無視すればOK」なんだって。突き放した距離で独り彼を待つ位なら、つくしてるか他の男を捜す方がまだイイと思うのかな。けど、これが女の勝負じゃないのかな。アホ男ってのは、周囲に女性がいる限り絶対直らないってのが定義なんだから

それにMaryJ.の経験してきた事とは、本質的に違う。自殺だろうと刑務所だろうと、Monicaには落ち度が無いように映る事柄。確かにアホ男というのでは同じだが、常に遊び歩かれたMaryJ.の方が身が切り裂かれると思う。確かにMonicaは、アホ男で苦労する女性を揺さぶれるだけの歌を歌える歌手になった。けど、この先のMonicaはどこに行くのだろう。色々ふまえると、MaryJ.のように安心して次回作を待ってる訳じゃないと思う。なにより、これ以上、イイ子に振れないで欲しい。


ということで、あんまり誉めてないように見えるかもしれないけど、イイ曲はかなりいい。はじめて聴くときは平坦な感情にも見えるが、追っかけていくほど深みが出てくるから。井戸の底で波打ってるのは上からは分からない。そんな感じです。
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