Marvin Gaye
"I want You"
どうしようもない自分自身
[2004/08/22]

P2S2H2でも書くのを躊躇う事ってある。こんなことを書くと、どんどんR&Bのコンセンサスからずれていく。それはあんまり気にして無いのだけど、Soulの王道からずれていくのは辛い。けど、何度も聴き直しても、どうしてもこの結論に来た。この受け留め方にどれだけの意味と価値と普遍性があるのか、それは分からない。
けど、

傑作の多いMarvin Gayeだけど、I Want YouとAnnna's Songが彼の両極北
それを貫通するのが、Marvin Gayeが抱える「どうしようもない自分自身」なのだ


普通は「聖」と「性」としてWhat's going onとLet's get it onを両極北とする。けど、僕はその道は選べなかった。突き詰めていくほどに見えてくる、彼の性に関する疑問といえばいいのかな? Let's Get it onの中の曲の歌詞はストレートだが、流していてHな気分になる曲じゃない。「求めてる感覚」はどうしようもなく感じるのにね。けど、問題はその求め方なのだって思うから。それがMaxに出たのがI Want Youだと思う。

本作がレコーディングまでを済ませていたリオン・ウエアの作品を譲り受けたというのは有名な話です。未だリオン・ウエアの方は聴いたことありません。いつか聴かなくちゃいけないと思ってる。本作の日本語版ではSoul Sis:泉山女史の本気のレビューが読む事が出来る。90年代からR&Bにハマッた者としては、「絶対に解説のどこかにJodeciが出てくる」ほどのK-ci追っかけぶりが見えなくて、残念やら嬉しいやら。 今だから言うが、T・ボーイ・ロスの「アイ・ウオント・ユー」は読後感ならぬ、聴後感が非常に悪い。”聴かなければ良かった”とさえ思った まで書くなんて、すげーなぁって思ってた。T・ボーイの曲は逆にちょっと聴いてみたくなったりして。

2002年の5月に2作以外の彼の作品を聴く気になった。そしてジャケで迷わず本作を選んだ。5月の風とI want youがぴったりハマッたのを今でも覚えてる。聴いた当初から本作に浸る事が出来たけど、I Want Youは不思議な曲だった。「透明感のあるUPを作れるのはチャッキートンプソンだけだ」って前に書いたけど、 本作が一番凄い。こんなUPは有り得ないよ。なのにR&B-Timeで追っかけていくほどに、彼の声自体の速度が違う事に気づいた。Yeahh!、Ahaaa!とかいつになく力強く叫んでるのにね。バックの音はあくまで早いテンポだが、彼の声はそうじゃないと思う。


押し切る形のI Want Youとは正反対
90年代のI Want Youと歌う曲は全てが押し切っていたのにね。パワー・ラブソングとでも言えばいいのかな。聴き込むほどにI Want Youという言葉の奥に鍛えたマッチョな体が浮かんできて、アホらしくなってやめちゃった。。なのに、彼の声の表情は違う。もしバックの音を消すことが出来たら、ここら辺がもっと見えてくると思うのだけど。

泣く形のI Want Youとも正反対
別れた後のI Want Youは全部この形だった。けど、本曲の何処にも涙の色合いが無い。あくまで力強い意志がある。それを超えると


聴き込むほどに距離感が見えてくる
この距離感が凄く不思議なんだよね。いいようのない不思議さがあって、ずっとずっと謎だった。ただ、音の疾走感と心の距離感が、I Want Youといいながら、逆に女性が追っかけてしまう曲を作り上げてる。その理由は分からない。ただ、誰も真似できないとずっとずっと思ってた。


けど、一年前かな?ヤン吉さんにMaurice J.を勧められた。「彼のI Want Youはパーフェクトカバーです」って。マジ?ホント?と思って聴いたけど、「これ本人はバックコーラスに参加してるだけじゃないの?」って思った。それ位に全く違いが分からなかった。Marvin is 60でのMontell Jordanのカバーはアホらしい程に格差があるのにね。Maurice J.の方は一年間、何度聴いても分からない。だから今年の夏はそれぞれの曲を取り出して、2曲だけのCDを作って、深夜の高速走ってる時に延々リピートしてました。それでやっと霧が晴れてきた気がする。


Marvinのどうしようもなさを考える時にいつも浮かぶことがある。


クソッタレな親父がいる事と、親父がいない事のどちらが辛いんだろう?
こんな質問をJaheimやR Kellyや大勢いるR&Bシンガーに聴いたら激怒されるだろう。どんな親でもいないに劣るものは無いって。けどさ、最終的に息子を殺したほどのMarvin Gyeの父はどうなるの?って思う。皆が黙ってしまうのか。。「本人のどうしようもなさは、何があろうとも最終的に本人の責任」それは確かな事実。けど、そのどうしようもなさはどうしてもなくならない。無くならないどうしよもなさを前面に出したのが、Hear My Dearであり、Annna's Songだから

Marvin Gyeは他のSoul歌手と比べてもピカ一の表情を持っている。「泣き出しそうな笑顔」だ。あの泣き出しそうな笑顔に惹かれて、僕はここまで聴きこんだのかもしれない。Anna's Songでの彼の表情を心に描こうとして、心が潰れそうになった事もあった。彼が抱えるどうしようもなさの重さを感じたから。あの曲は好きといってて、何処にも行けないといってて、そして終わってる。

本作は時期的に二人目の妻:ジャンに捧げた作品らしい。それは知識として以前から知ってたのにね。けど、どうしても歌と結びつかなかった。けど、この2つのI Want Youを延々リピートして見えてきた。


きっと彼は同じ過ちを死んでも二度と繰り返したくなかったのだろう。だからこそ、自分自身のどうしようもなさをどうにかしたかったのだろう。それを本気で取り組んでいるのが、このI Want Youになると。

けど、やっぱりそれは完全に取り除かれた訳じゃない。それを彼自身が痛感してるからこそ、本作のもつ距離感が生まれたのだろう。その直したいという本気さが確かだからこそ、その距離を女性の方が詰めるのだろう。

このI Want Youの本質は、「この言葉を言う事が出来る男になりたい」という想いなんだと。


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