Brian Mcknight
《琥珀のような人ですね》
[2001/04/08]

というよりも、デビューアルバム[Brian Mcknight]が結晶そのものだったと思う。 これだけ純度が高くて完成されたデビューアルバムは滅多に無いんじゃないかな。 彼のそれ以降のアルバムでは"接点を探す事"はあっても、もうこの時ほどの純度は達成できていないのと思うし、本人自身もそう認めているみたい、、、 デビューアルバムは余りセールスが良くなかったと聞くけれど、それも聴いて納得。このアルバムは何気なく流して聞くには重いよ。もし、何処かで流れているのを耳にしたら、オイオイ*3はびっくりしそう。 だって自分がこのアルバムを聞く時はやっぱヘッドホンを して聞くしね。

それ以降の3作[I remenber you、Anytime、Back at one]も確かに好きだけど、 このアルバムにはかなわないと思う。何よりもこのアルバムだけは、 他で聞けないような歌いっぷりを披露してるから。


雑誌にインタビューが載ってた。
「R&BとPOPSの両方の分野で本当に成功を収めているのは、R Kellyと自分だけだ」 って珍しい口調だったけど、マクナイトは本当に今の状態を喜んでいるのかな? ってこのアルバムを聞くたびに思う。 確かに老舗のmotownに移籍して、最近はますます活躍しているのは嬉しい限りだが。

売る為の要素を排除する事がいい事なのかは分らないけれど、 そもそも背反な命題と捉える事が間違っているのかもしれないけれど、 デビューアルバムでここまで突き詰めた事が、その後の成功をいい形にしているのだと思うし、その成功でも自身を見失わない1番の理由だと思う。マクナイトの歩みは好きだから、もちろん1st以降のアルバムも好きだけど、だけど、やっぱり1stがたまらない。 このアルバムだけ、彼は全開にしていると思うから。


このアルバムに於いて、彼はラディカルな宣言をしているかのようで、、、

音楽一家に生まれて、クリスマス・アルバム[Bethlehem]では奥さんとアツアツのデュエットを披露している、、そんな彼だから、アフリカン・アメリカンの平均的な境遇と比べると恵まれた境遇に生まれ、ずっと今日まで来たのだと思う。だからこそ、一般的なアフリカン・アメリカンとは違った形に進まざるを得ないのだと思う。違った何かを突き詰めないといけなかったのだと。


きっと彼の少年時代は「溜め」のあるものだったんだろうな、、、 とこのアルバムを聞いて何気なく思った。お兄さんがアーティストとして活躍している中で、 最初はアーティストの道を考えていなかったというけれど、、、 心に溜まったモノを、このアルバムで全てぶちまけてる。 売れなくてもいいという潔さは、独り善がりに陥らない、綱渡りを強いらるけれど、、、このアルバムは成功してる。例え綱だろうとも、目を近づけるほどに幅がある と言わんばかり。

突き詰めた後に出てくるモノだけが、優しさになりうる
それ以外は親切でしかない

こう言い切っている。このアルバムを聞くたびに自分はそう思う。 そして、それ以外のアルバムを聞くたびに何処かで親切感を感じる。 それはそれで嫌な感情なのではないけれども、エスコートされるような感覚に魅力を覚える女性は多いのだろうけども。だけど、結局の所で、この人のラディカルさはそれを拒否している地点から出発しているんじゃないのかな。 歌詞カードを読んでいても、、、そこでいくら呼びとめ愛を伝えていても、 曲そのものからはその気持ちを余り感じない。現実性の無い景色のようで、、、キツク言えば"別れに対する心の痛み"とは感じない。


だから 一般的な恋愛感情と重なる部分はあまりに少ないと思う。 ドキドキもなければ、きめ台詞も無い。吹っ飛ぶ感覚もなければ、寛ぎも無い。何よりこのアルバムは"恋愛の終わり"から"始まっている"。「始まり」の気持ちを載せる事、「途中の流転三転」を載せる事、「終りたくない」と叫ぶ事、そんな曲は幾多とあっても、「終る事」から「始まる事」を伝えてるのはこのアルバムだけなんじゃないかと、、、そう思う。

愛する人に叫びたいのでなく、
愛について語りたいので無く、
愛を語る為に何をすべきかについて語りたいのだろう

それは自分の心にメスを持って切り込んでいく事であり、生じた事実の全てを公平に受けとめる事。それが人として無理であっても、 そちらに向かって歩いていく事こそが大切なのだ。と伝えてる。

この世に《知らない方が幸せ》なんてのは有り得ない
こう言い切る時点で、そりゃ、売れないアルバムが出来あがるに決まってるよ、、、 って思う。だけど、自分はこのアルバムが大好き。1番好き。これから何十年とR&Bを聞いても、幾多の曲に出会っても、このアルバムが1番好きだと思う。実はこのアルバムには後悔する想い出がある。

同時代的にこのアルバムを聴けなかったという事。
中3の時に、SonyMTVで初めてこの人をみた。"One Last Cry"だった。 けど、その頃、ヒット曲が3つないアルバムまで買うお金が無かったし、その曲はビルボードのナショナルチャートでは見かけなかったから。それでもレイドバックな雰囲気の中で歌うマクナイトにかなり惹かれた。 だから、かなり迷った。けど、その時はそんな自分の中の何かを抑えた。
結局、初めて買ったアルバムは[anytime]だった。 その後、音楽友達でもあるナッツにbmrのバックナンバーでの哲章氏のレビューを見せてもらって、慌て買ったときにはもう二十歳だった。アルバムを聞いて、あのとき買わなかった事をかなり後悔した。

今になってもそう思う。
最近はCDに費やせるお金も増えたから、こんな緊張関係は余り無くなったけど、、、あの緊張感は、それはそれで悪くなかった。  と振り返って思う。『お金が無い事は、幼いという事は、自分の純度に関係あるのかな?』 という事でぐるっと一周してきた気分になるこの頃です。

ちなみに、
[I remember you]では一転して、接点の多いアルバムになったけれど、 彼独特の声色もこの頃から遺憾なく発揮されているけれど、 少し甘甘だなーーと思う。 歌曲は多いし、アルバム自体のまとまりも良いけれど。 仕事帰りのOLが部屋でゆっくり足を伸ばしながら聞くのがピッタシのアルバムだと思いマス。

[anytime]では外部の血を入れたという事になっているけれど、確かに良かったのは 表題曲と"could"。特にこれはイントロ部分からグイグイくる。 数多いマクナイトの曲の中でもかなり上の方だと思う。 個人的には"i belong to you"なんてのも好きなんだけど。

[Back at one]はオビにもあるように「新たなる旅立ち」。 出井氏の見事な解説の通りです。 ただ、アラを探せば、、、シャウトな気持ちとの両立までを考えて欲しかったな。 少し余裕のある所が憎らしいです。


[bethlehem]は本国のクリスマスにピッタシの作り。日本のクリスマスに合うかどうかは保証できないけど、本場の雰囲気を味わうのにはお勧めです。特に"Let it snow '98"が大好きで大好きで。

そろそろ新作が出るらしいので楽しみ。 けど、4thは売れたらしいから、余裕がある造りになるかも、、、
お勧めはアジア限定盤の[back at one:]+"anytime""could"です。 これはかなりお買い得間違い無し。
[Brian Mcknight]はなかなか中古屋でも見つからないと思いマス。ただ、後の方の盤は彼の初の全米NO1ヒットでもあり、vanessa williamsとのデュエットでもある"Love is"が追加されているので、こちらがお勧め。
もし、このアルバムが全ての人に対して希求力があるならば、それは人が二十歳になる前の、ほんの僅かな瞬間なんだろう。

最近、このアルバムを聴くのが疲れる。
終った後に駆けがるような、、、そんな感覚。
そこから随分遠くに来てしまったのか、、、
つづき