Sade
《横たわる時の長さ》と《風化させない痛み》
[2003/03]

「この歌手、男のくせに《押し気》が足りない」と思ってしまった貴方は、R&Bにハマリ過ぎです。もう完全に戻れなくて、突っ走るしか道が残ってませんw  というように、芸術の分野の中で音楽、音楽の分野の中でR&Bを選んだのは、突き詰めて行くと「直接性」に対する親和性なのだと思う。コムヅカシイことなんていらない。とにかく叫ぶか泣いてくれ。やっぱりこんな気持ちが大きい。直接性なんてコムヅカシク書いてますが、要は「押し気」のことです。それは男性歌手だけじゃなくて、女性歌手にもやっぱり感じるんだよね。誰もリカちゃんハウスで遊んでない。どこからみてもリアルで重量感のある感情に満ちてる。

けど、やっぱりSadeは異質だと思う。ホント「品のいいバーで流せる女性歌手No1」の座は永遠に安泰なんじゃないかな。そんな彼女は、楽曲の質だけでなく根本的な所で違うと感じる。80年代から確固たる地位を築いていた彼女は、90年代に特化してた自分にとって捉えられない存在だった。92年のLove Deluxeは中学3年だったから同時代的に聴くハズもなく、次回作のLovers Rockは2000年だもん。「絶対90年代をバカにしてる」と密かに思ってましたw 加えて、「やっぱりSadeなのか」とレビューを読んでて思い知る事もよくあった。歌手として最初に見たのはGroove TheoryのAmel Larrieuxかな。彼女の一番尊敬する歌手がSadeだったような・・・・、もちろんMaxwellもそう。

歌を聴かなくても、Sadeの《静かな重低音》ともいえる存在感が分かる
だからこそ、いつか聴かなくちゃと思ってた。哲章さんがAをつけたこともあって、発売当時にさっそくこのLovers Rockを聴いたのですが、余計困惑しただけだった。

こんなとっかかりのないツルツルな崖を誰が登れるの?
率直に言って、これだけ普通のR&B歌手と違ったらどうしようもない。だから苦手なアーティストに登録しようかなぁ・・・と思ってました。どうみても自分とタイプが違うから。ところが、貸した友達がいつの間にか聴きこんでた。ホントこんだけ聴きこむのは珍しいって位。それを見て「やっぱり素直に聴いてイイ歌手なんだね。自分は肩肘張りすぎてた」と反省しました。R&Bを聴きこむと決めた後に、評価が高いアーティストを聴くのは疲れます。そんなにいつも初心に帰れる訳じゃないから。だから、過去の作品から聴きこもうと思って、中古屋で見つけては聴いてました。


Sadeの核が見えたのは、この4作目Love Deluxeの7曲目"pearls"です。全作品の中で、この曲が一番直接性に満ちてると思う。生な感情をさらけ出して歌い上げてる。やっぱりこのラインからしか自分はいけない。この曲の中でも「ハレルヤ」という言葉を出す瞬間がMAXかな。けど、この瞬間の方向性が他のアーティストと全然違うと感じる。普通はあくまで言葉と共に垂直な力が見える。なのに彼女の叫びだけは横の力を感じるんだよね。

極限状態においても《人生を貫通するメロディー》と《今の生な悲哀感》のバランスをとろうとしてる
そんな気がしたから。8年間あけてじゃないと次回作を作らない唯我独尊な歩みは、彼女が自身に課してるスタンスから生まれてるんじゃないかな。この曲の瞬間だけはそのスタンスが揺らいでると思う。
結論として感じたのは・・彼女も他のR&Bの歌手同様、生の感情を大切にしてる。けど、生の感情をその時点で歌うことに、誰よりも違和感を感じてる。何故、Sadeがこんな風に思うのかは分からない。けど、他のアルバムを聴いてもやっぱりこの結論に来たから。だからこそ、彼女は「品のいいバーで流せる女性歌手No1」なのだろう。どこから見ても彼女は、

歌を聴く人の感情をかき乱そうとしない

って、別に他の歌手がそう思ってる訳じゃないよ。単にギリギリの地点まで行っちゃっただけであって、人生そんな時はあると思うから。そんな歌の側に行って、そんな歌に側に来てもらって、R&Bを聴き込む事はその繰り返しだと思うから。
けど、Sadeはあくまでこのラインを守ろうとしてる。その時点で、彼女のフォロワーが決して超えれないのも分かった気がした。結果としての表現と奥の核は明確に違う。表現を真似ても、中身は真似れない。単に口当たりのいい曲にしかならないよ。


オーバーワーク気味な彼女の感情を、処女作のDiamond Lifeだけには感じる。男に狙いを定める視線を感じるから。やっぱりどれだけ凄くても、若い時には若さに溢れてるのか、ってちょっと安心しました。特に1曲目Smooth Operatorには感じる。色気を抑えることで出す色気を分かってないのが若さの証拠かな。Lovers Rockとの違いは大きい。2曲目Your Love is Kingで見事に別の表情を出すのも流石です。同時代的には聴けなかったけど、この時点で大型新人だと感じる。だから今からSade聴こうとしてる人は、この一作目がお勧めです。若ければ若いほど、若い時の歌を聴きましょう。本作なら自分も二十歳の頃に聴けたから。問題は、「今から聴く価値があるか?」だけど、やっぱりSadeにはあると思う。それだけ偉大な歌手です。Bestなんてやめて、がんがんこっちを聴いてみてはどうでしょう?


P2S2H2的にお勧めなのが、この2作目Promiseです。1曲目Is It Crimeから違う。このアルバムでの大伴良則氏の「クールな歌声の陰に、女シャーデーの激しさと狙いの高さが良く見える」のコメントの通りだと思う。本当に伸びるアーティストは、売れた処女作の次が一番凄いと思う。その点で、この作品は文句無しです。全体的にSadeが自身の感情の方を優先してると思う。特に一番感じるのは5曲目Jezebelです。これは信じられないレベルで持ってかれるや。ある意味、pearlsよりも凄い。自分はSadeの曲の中で一番この曲に注目しちゃう。久々に奥底からえぐられたから。
どう聴きこんでも、最終的に失敗に終わる人生への追悼歌だと思える。

どこが間違ってるとは明確に言えないけど、何かが根本的におかしい。
けど、今、私が彼女に言っても何も伝わらないのは分かる。
だからこの歌を歌うしかない


きっとこの歌を歌っている時は、Jezebelは引き返せる地点にいるのだろう。Jezebelがこの歌で気づけるようになった頃には、Sadeはもっと伝わる明確な言葉を手に入れるのだろう。けど、その時にはJezebelはもう引き返せない。だから、Sadeはそこまで感じて歌にしてる気がする。だからかな。


《横たわる時の長さ》は優しさなのか・・・と思ったことがある。
明確な結論が出ない間ずっと動けないなら、尚更の事、この長さが恨めしい。けどSadeのレベルならば、確かに認めざるをえないんだよね。「未練切り」でも書いたけど、マクナイトのスタンスは次の女性に対する優しさにしかならない。終わった時点で今の彼女のことは気にしてない。その点で、このSadeのスタンスはどちらにも優しいのかもしれない。
1歩間違ったら一番最悪な形になるとは思うけど・・・《風化させない痛み》がなかったら適当な奴にしかならないと思うけど・・・間違い無くSadeは確固たるスタンスを作り上げてる。確かにこれは女性の憧れだよ。女性の理想像の一つといっていいんじゃないかな。

昔、こんな雰囲気の女性に会った事がある。あの時は別の歌手を薦めたけど、彼女の志向性的には間違い無くSadeだった。今頃になってやっとそんな事も分かるようになる。そんな意味では聴く歌手の幅の広さも大事だと痛感する。けど自分は《風化させない痛み》をどうやって達成できるのか、その根本的なところがまだ分かっていません。まだまだです。
3作目のstronget than prideは特別にこちら






[2004/10]

今ごろになってタイトルがpearlsなのに気づきました。実は皆さんが思ってるほど、歌詞とかタイトルとか気にしてません。いきなり引っ張られると、それ以外が目に入らなくなるタイプなので。改めてこのタイトルを見ると、なるほどなぁ・・・って思う。やっぱり真珠なんだね。この一言で、抱えた痛みを糧にしようとしてるのが明確だと思う。貝が内部にはいった異物を包み込んで出来るのが真珠といいますが、Syleenaのところでも書いたように、R&B女性シンガーは真珠なんだよね。それは確かに理想形です。

この曲を聴くとどうしても、《人生を貫通するメロディー》を感じたけど、やっぱりpearlは複数形なんだネ。こんな瞬間はマジモン嬉しい。@ああ、ちゃんと好きになれたんだって思えるから。

どうやって人生を貫通するメロディーと判断するんですか?と言われると困る。ただ単に、「この歌で引っ張り出される自分の奥が何個か」だけの気がする。この歌には複数引っ張り出されて、かつ彼女の俯瞰する視線が見えるから。
[2004/02]

Sade聴きこんでます。けど心で描くようになってから言葉にするのにいつも以上に時間がかかってるや。目標は「これさえ見ればSadeを好きな女性を振り向かせれる内容」ですが、そんなに世の中うまく行くわけありませんw けどさ、R&Bの中でSadeだけ知ってるとかいう女性は、着る服を選ぶように聴く音楽を選んでる気がする・・・。曲を聴きたいのでなく、曲を聴いてる自身を見て欲しいのだろうと思っちた。

以前はそんなの気にせず書いてましたが、そんな女性が万が一にもたまたま検索Hitで来た時に、ちゃんと伝わる内容を目指したい今日この頃。だから余計に遅くなってますw それに同時代に知ったのがLove Deluxeの後という後ろめたさもあるしね。


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