いつかこの表情をしたいなぁ  それは無しだろマクナイト 
[2001/07]

Brian Mcknightがデビューしてはや10年目。この間に4枚のアルバム(クリスマスアルバムを除く)を発表してきた彼が、待ちに待った新作を発表する。発売日:8月28日、タイトル:Superhero

ちょっとまってよ、マクナイト。"Superhero"って、、、それは無しでしょ。確かにR&Bの文脈でそういう曲は見かける。Carl Thomasの"Supastar"だったり、III from the Soulの"Black Superman"だったり。マライアやホイットニーもそんなテイストの曲があったと思う。けどマクナイトに「僕は君のスーパーヒーローだよ」なんて、ギャグでも死んでも歌って欲しくないぞ。前作4thはタイトル"Back at One"の通り、彼の原点回帰の姿勢がうかがえた。そして成功を収めて、Motwonに移籍した所を見せつけたと思う。だから本作において、彼はフリーハンドを手にしてると思ってた。前作が、3作目との兼ね合いで、原点回帰の方向性しか無かったような状況とは違うと。

けど、やっぱりマクナイトにはあっちに振れて欲しくない。10年目の記念すべき作品として、処女作を超えるぐらいに突き詰めて欲しかった。中庸路線なんて歩いて欲しくなかった。確かに処女作では誰もついて行けなかったと思うし、それはそのままセールス結果に反映したと思う。聴いて貰う事は大前提なのだから、独り善がりでも困るのは確か。けど今なら、みんなついてくるよ。その為の今までの軌跡じゃなかったの? ここで処女作のレベルの作品を発表すれば、間違い無く殿堂入りだと思う。けど、今回の作品であっちに行っちゃったら、一体いつになるの??


それにしても、マクナイトに【ねーちゃんねーちゃんなビデオクリップ】はあるのだろうか?ってたまに思う。たぶん、3作目の"You Should Be Mine"位じゃないかな。けど、あれもねーちゃ達とは結構距離があった。BoyzIIMenでさえ、1stではそんなテイストのビデオクリップを作っているのにね。全く、マクナイトの奥さんは幸せなことだ って思う。けど自分はそれはマクナイトの優しさだとは思わない。それはマクナイトが自身に引いているラインなのだ、と思う。

そんなラインは1stのビデオクリップからも十二分にうかがえた。って"One Last Cry" と"Love is"しか見たこと無かったけど、マクナイトがどういう男かは痛いほど分った。あのビデオクリップは幼な心に、本気で怖かった。何が怖いのかが分らないけど、、、惹かれてる、惹かれてるのに怖い。


まるで、触れようと手を伸ばしたら、肩から腕ごと切り落とされるような感覚で
結局、それだけのものを感じたのはマクナイトだけだった。そして自分はアルバムを買えなかった。確かにあの頃は2ヶ月に1枚程度だった。けど、他のアーティストを諦めれば買えたのだと思う。だから高校時代の文集でも、好きな歌手の欄にマクナイトの名前を書けなかった。そりゃそうだよね、ビビって買えないのに好きって言えるなら、世の中なんでもありになっちゃう。

今、あの頃の感覚を思い出しては何となく考えてる。あの頃、自分は何が怖かったのだろうって。マクナイトは相手に害を与える男じゃない。それは女性であっても男性であっても、、、そんな彼の姿はあの頃から良く分ってた。そして自爆や自壊の破片が飛んでくるという事も決して無い。

けど、だからこそ、その怖さが余計怖く感じたのだと思う
今、思う。マクナイトは、あえていうなら自戒の男なのだと

マクナイトに腕ごと切り落とされる事は決して無い。やっぱり彼はそんなタイプじゃない。けど自分が感じたイメージはある意味正しいと思う。マクナイトが切り落とすのでなく、自分自身の腕が勝手に壊れるのだろう。それ程までに純度の差が歴然とあったのだ、とやっと最近気づいた。

あの世界観は限りなく女性と親和性が無い、と思う。こんな事を言うと女性陣から怒られそうだが、女性批評家のレビューを見てても思った。それは、男性リスナーが女性歌手の事を本当の所で分らないのと同じだと思う。もちろん異性に対する魅力は異性にしか分らないだろう。けど、マクナイトの処女作は同性に対する魅力なのだと思う。しかも、それのみだと思う。それで、誰かが間に入って伝える事で、異性にも"同性にとっての魅力"が伝わるだろう。けどマクナイトの処女作は、素直に述べて、「惹かれるけど怖い」だと思う。

マクナイト自身、あれが売れない事自体は納得済みだったと、最近思う。いや、ちょっとこれは言葉足らず。マクナイトはデビュー時において、Take6のメンバーだった兄貴との違いを打ちだす必要性があったのだと。その結果、どうしても偏った作りになってしまうのはしょうがないと思っていたと思う。最初に"兄貴の二番煎じ"と受け取られれば、いつまでたっても、「マクナイト弟」の域を出れない事を、聡明な彼は分っていたのだと思う。

どっかのインタビューで、「Take6のメンバーに参加しないかっていうオファーはあった。それは正直心が動いた」と言っていた。けど、彼はソロでやる事にした。その決断をした時点で、マクナイトの中に、売れるかどうかは別問題として、これは自分自身だけが表現できるものだという自信があったのだと思う。音楽以前の志向性として。

そして彼は処女作を作った。売れてない。けど彼は絶対に負けを認めてない・・・と思う。というよりも達成感の方が強いんじゃないかな。そこから見ると、2ndは琥珀の部分が解けだした感覚。けどそれは相手の存在からどうしても解けてしまうというよりも、マクナイトの譲った部分だと感じた。「ほら、こんなに柔らかくも出来るんだよ」って。

けど、ごめん、「君の前だから、刺が抜かれるんだ」なら受け入れる。けど、「柔らかくも出来る」なんて、いらない。そんなのは、いらない。それくらいなら、マクナイトの素直さの方がいい。こっちの事なんて考えなくていいから、マクナイトが突き詰めたいだけ突き詰めてくれれば。そしてそれを見せてくれるのなら、そちらの方が優しいと思うから。だってあんなの単なる親切じゃん。

気づいてみれば、若者に対する希求力にかけてたと気づいた彼は3作目でパフィーと手を組む。確かに、マクナイトはやんちゃ連中からは遠いと思う。けどマクナイトが親父臭いとは思わない。ただ、純度としての完成度が高いから、好きというのさえ躊躇われるのだと。

そして原点回帰で、彼は4作目を作る。ここでやっと揺らぎ無い地位を確保したように見える。3rdの日本盤のオビには「Anytimeのロングヒットでアメリカを代表するアーティストとなった」と書いてあったしね。

けど、本当は、、、その前から彼は代表であった。1stの時点で、彼はそれを掴んで、それを表現した時点で、代表となった。けど、それが明確になってないから、彼の原点回帰は"Back at One"レベルだと思う。1st以上を作ろうとする要因を見つけれて無いと思う。例えば、彼はしばしばBabyfaceと比べられるが、彼の奥底は一向に揺らいで無いと思う。何故なら、マクナイトの本陣には誰も切り込んでないのだから。


だからって、Superhero、、、

Alica Keysが1stをカバーした事をどう思ってるのかな? たぶん、女性がカバーする事自体にマクナイト自身もびっくりしていると思う。けど彼に火はつかないだろう。「微笑ましい」位かな? あれじゃあ、マクナイトは揺らがないだろう。彼女は音楽的な方向(ピアノソロ)に惹かれている面が強いと感じるから。

どっちにしても、あの処女作じゃ不十分という事になって、やっとそれ以上の作品が生まれるのであって、、それのみだと思う。誉められてる地点から生まれるのは、自身による二番煎じだと思う。それは、余計見たくない。

処女作を何度も聴きながら、マクナイトのそこを探す。それと平行して、マクナイトが処女作によって何の代表となったのかを探さなくちゃ。ナイブーとかいう話じゃない。もっと違う。内向的でもない。というのも、彼は内側を突き詰める事が外側に辿り着く事なのだと言っているのだから。そこまで見据えた上での内向性なのだから。そんなんじゃ鼻で笑われちゃうや。

マクナイトの処女作が何を訴えっているかは、二十歳の頃に掴めたと思った。けどそれだけじゃ、[良く出来ました花丸]じゃねーか。やっぱりそれが欲しい訳じゃない。自分はマクナイトの志向性が欲しいのであって、結果をトレースしたい訳じゃない。それは最初の一歩でしかないはずだから。
  
《逆サイド》代表 Brian Mcknightに捧ぐ
[2001/07/30]

この言葉が1番彼にピッタリ来ると思った。マクナイトの1stはそれだけアグレッシブな面を持っていると思うから。内向的や内省的という表現よりも、逆サイドの方がカッコいいと思う。確かにやんちゃ連中に比べれば、揺らしたゴールネットの数は少ないだろう彼だけど、(そりゃ多かったら、皆泣いちゃうぜ) けど、彼は攻めてたと思う。内省的であるのは確かだけど、視線は外を向いていると思うから。「こんな言葉なんて聞いた事ないぞ」ってつっこみはいると思う。けど、やっぱりこの言葉がマクナイトの本質を表している気がして。同じ《逆サイド》にはCalvin Rihcardsonもいるね。あとは誰がいるかな??

K-ciは確かに男の子の憧れの対象になるだろうし、現にSisqoもリスペクトしている訳だけど、こっちサイドは中々育ってないなぁ、、とは思う。まあ、どっちにしても、向こうのサイドの方が正常的ではあるから、こっちが逆サイドになるんだけどね。ってこちらが異常って訳じゃあもちろん、ありません。まあ「○ン○ン ついてるのか!」って言われるかも知れないが、こっちはこっちで「君を含めて、結局誰一人幸せになってないんじゃないのか?」とは言えるだろうなぁ。うーん、両サイドの間でパスが通る事はあるのかなぁ、って思ってしまう。だってねー、K-ciとRichardsonは幼なじみでもライバル関係じゃない? もし幼なじみでなかったら、どうなってたかな?

という事で、話が少しずれましたが、
Brian Mcknightは間違い無く《逆サイド》代表です。彼にこの言葉を捧げます。


けど、マクナイトには根本的に、どうしても弱い面があると思う。マクナイト自身は「今、POPSとR&Bの両方の分野にまたがって、本当の意味で成功しているのは自分とR Kellyだけだ」と言っていたが、ごめん、マクナイト。この先を見る限り、どうしても、君とR Kellyの違いは、ますます大きな意味を持ち始めると思うよ。

ずっとマクナイトを追っかけて来たけれど、今自分は、どうしようもないほどの根の弱さをマクナイトに感じてしまう。それは1stの時点で、極めて明確に出ている。だから、この点をもって、マクナイトの事、すなわちその結晶である1stはどうしても好きになれない人達がいるのも事実だと思う。実際、マクナイトに対する否定的な見方はたまに見かける。もちろん、4thでの音楽性の高さは皆認める所だが。けれど、よく見ると、4thでも出ていると思う。


痛みの共有が出来ないという弱さ
[2001/08/05]

本当の事をいうと、、逆サイドに良い人材が育ってる。何処に出しても恥ずかしくないTyreseが。「彼女らは僕に色々望むんだ、バックとか何とか。けどそれじゃあ何処にもいかないっていう、、」というような事をインタビューで答えてた。「馬鹿だなー、そんなの当たり前なんだから、こっちも適当に食ってりゃいいのに」と思った貴方、そんな貴方はもちろん逆サイドには入れませんw 

けど彼はマクナイトの事をリスペクトしてない。なぜかBabyfaceなんだよね。けど、実は当然なのかも、って思う。それはマクナイトとは痛みの共有が出来ないからだと。もちろん、マクナイトの1stがワッツで育つ彼の耳にまでは届いたとは余り思えないのもあるが。けど、もし届いたとしても、彼はマクナイトをリスペクトしていたか?という疑問に、、、素直にYESと答えられないと思う。何故なら、1stであっても、痛みはフェーズを変えているから。

結局、TyreseはナイーブさをBabyfaceに投影し、2作目でBabyfaceから曲を貰っているけれど、それがホントにどうしようもない出来なんだよね。リスペクトに対して、あのレベルの曲を返す根性は見上げたもんだよ。せっかく、髪型もファンキーになって、盟友LAと心機一転かと思ったのに、期待外れかも、、思ってしまったが。


楽しさや喜びって色々な物と繋がる。こっちも、それに対して「おめでとう」や「よかったね」って言える。けど、悲しさや痛みはそうじゃない。何処にも行かない。こっちも、「可哀想に」とも言えない。出来る事といえば、聞く位・・・。
喜びは世界が広がる気持ちにしてくれる。けど悲しみは、それのみが目の前にあり、まるでそのサイズだけがどんどん大きくなるような感覚で。

だからこそ、逆説的に、悲しみ,痛みを共有出来るとしたら、人は心の奥底で揺さぶられると思う。同じ痛みと、そこでの僅かな光を示してくれるのなら、本当の意味で救われるだろう。

R Kellyは"Woman's Fed Up"以来、ずっとそっちの方向を歩いてる。自身の扉を開き、痛みに傷ついた姿を見せながら。確かに最新作TP2-COMはぶっとんだ作りだった。現実に付いていくのはしんどいと思う。けど、そんなR Kellyの姿を、みんな見守っていると思う。

ところが、マクナイトは正反対を歩いていると思う。マクナイトはデビュー以来、どんどん自身の本当の姿から離れている。彼の引いた様々なラインは、優雅で誠実感のあるマクナイト像を浮かび上げている。そして、皆それを共有する。けど、、、マクナイト自身も、その像に目がくらんでいると思ってしまう。

だって、"Lonely"のサビが[Are You Lonely for Me]だよ

確かに、世界中でマクナイトだけは、この台詞がアリだと思う。相手の女性はマクナイトがいない事を寂しがってると、皆思うだろう。これをマクナイト以外が言った日には「はああーーん、ふざけるのもいいかげんにして!二度とかけてこないで」で、二度目の電話は警察沙汰間違い無いだろうw

けどマクナイト、"皆がアリだと思う事"と、"実際にそれを言う事"の間には、決して超えていけないラインがあるんじゃないの?そんなラインを引く事が君の核じゃないの?

だから、4thで1番のバラード"6,8,12"でも、彼はワルツを踊ってると思っちゃう。 
<shout> 戻って来ない女性を、ワルツを踊りながら待てるなら、俺だってそうしてーよ</shout>
って気分になるもんね。実際、「ちょっとまって、マクナイト、君の家の扉を開けてみな? 絶対、その女性は立ってるから」とは、この曲の暗黙の了解のような気がしてくるやw

こんな4thから受ける感覚は、、、言えない重石のように心を塞ぐ。だから、良い曲が揃っていると思う4thだけど、取り出して聴く事は滅多にない。1stは月に1度は聴いても。結局、マクナイトは共有すべき痛みを見失っているように思う。

現時点で、優雅な誠実感を与えれる男性R&Bシンガーは、マクナイトがダントツ1位。そんなマクナイトの枠組みはもう揺らいでない。それが、、やっぱり不満。

1stだけは、マクナイトが、その枠組みを作る過程を見せていると思う。

まるで、「貴方の事とは終りにしたいの、良い人と出会ったの」という言葉に対して「おめでとう」という返事をする為の儀式のような、、、

次ぎの彼女との会話で、前の彼女の事を聞かれた時に、「彼女の事は好きだったよ」という一言で、今の彼女へ安心感と誠実さを渡す為の儀式のような

そんな意味では、彼は恋愛の痛みを、ラインを引く気概にしていたと思う。1stを聴く度にそう思う。それは悪い事じゃない。けどそんな姿と親和性が無い人は一定数、当然としていると思う。
その果てに今のマクナイトがいる。彼は奥さんの浮気や子供の反抗から限りなく遠い地点にいる。それはマクナイトがぶってなく、本当に良い男なのだからだと思う。けど、少しくらい反抗したくなる面があるほうが、子供としては楽なんじゃないかと思ってしまう。

何より、人は、マクナイトほど強くない、、、だからこそ、痛みの共有を求めてしまうんだと。

誠実でいい男だからこそ、その結果として、痛みを抱えてないという逆説に、、、彼は陥ってしまっているのでは無いだろうか。だからこそ、どうしても歌わざるを得ない物を無くしていると。マクナイトの、そのラインは余りにもエレガント過ぎて、本当に側に行くには重すぎるのだとしたら?

もしマクナイトが惚れた女性が、それゆえにハチャメチャだけど痛みを抱えている男の方を選んだらどうするの? って思う。実際は有りえないだろうけど、もしこんなシュチュエーションが存在したなら、女性はマクナイトじゃなく、そっちの男を選ぶだろう。彼女は共有できない痛みを抱えていて、それでも前を見つめようともがいているとして、、、マクナイトは確かに好スタート地点からエレガントに歩いてる。その男は、まるで自身は被害者のように勘違いして女性にめちゃをしてるとしても、、、 実際、彼女はその男を選ぶと思う。そんな風に、、、この世は出来ているのだと。


うーん、小学校の学芸会みたいになってきたが、やっぱり自分はそう思うんだよな。その時、ラインを引いてきたマクナイトは、どう思うのかが、凄く知りたかった。ハンサム過ぎて、ナイスガイ過ぎるマクナイトは、だからこそ、上手く行かない時に何を思うのかを。もし、そこを突き詰めたら、あのレベルを超せるかも、と思った。


それは、もうかなわぬ夢か。マクナイトの新作に関するインタビュー記事を見たから。Superheroの由来もあったし。彼は現時点でも第一線で活躍している事に、感慨深げのようだった。確かに、その気持ちは良く分かる。インタビューでは、その理由を聞かれて、「それが分ったら苦労しないよ、、」ってな答えをしてたw

それはやっぱり、マクナイトの引いたラインの優雅さと誠実さだと思うよ、、きっと新作も、文句をつけれないほどの出来の曲にマクナイトらしさが詰まってるんだろうなぁ、、と思う。そりゃ、絶対に発売日に買うけどさ。もう1度、マクナイトのラインを引く姿を見たいというのは、間違ってるのだとしても、、

いい男過ぎる所以の逆説に陥ってるマクナイトは、これから何処に向かって歩いていくのだろうか?



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