TYRESE
"2000 WATTS"
心の遠景
[2004/05]

3年前のこの時期に発売された時、あまりに出来が良かったからFavに追加した。そしてLovers集を作った時にも8:What Am I Gonna Doを取り上げた。けど、それは身勝手に聴いてる形だったから、いつかTyreseを本気で好きな男の子に突っ込まれるだろうと思ってた。それにあの頃は最初のUP群をトコトンまで書く気がしなかったのもある。あんまりTyreseの事を悪く書きたくなかったから。けど、もう2004。彼が全開にしたアルバムなのだから、ちゃんと正面から全部取り上げようと思って。それに、やっとこのジャケに見合うだけの言葉が浮かんできたから。

歌詞を気にせず聴けば名曲なのが1:I Like them Girlsと2:I Ain't the Oneです。彼のラフさとワルさが一番出てるんじゃないかな。クリーンなイメージを打破する曲になってるのは確か。けど、こんな事やってるから、いつまでたってもUsherよりも売れないんだよ・・・と思う。

全ての女性が僕の恋愛対象です
って言えなかったら、NO1アイドルにはなれないんだよ。そんな意味ではUsherの事は誉めてイイと思う。あの顔のバランスを崩してる大きな鼻が、カッコよく見えたりダサク見えたりする。その度に彼の恋愛対象は自然と広がる気もするから。なのにTyreseは1曲目で「俺の理想の女性像はこれだーー」って歌って、2曲目で「Baby, baby I ain't the one 」って叫んでるんだもん。この時点で全ての女性に喧嘩売ってるよ。別に1曲目ならセーフだと思う。他の男性アーティストもそんなフェーズの曲を歌っているから。けど、2曲目はやっちゃダメなんだって。こんなの歌おうとするのは君ぐらいだよ。

1度も喋った事が無いのに、「本気で好き」って告白されると、こんな叫びになる
とは個人的に同情するけど、純粋に女性陣からは総スカンでしょう。だからこの曲は「俺は女に惚れたことがない」とのたまうDalvinと同じぐらいの人数にしか届かない。それでもTyreseの方がメジャーなのは、"Baby, baby I ain't the one"の方がまだDalvinよりもマシだから。本曲がアルバムの山場だったら、Dalvinがあの作品で退場になったようにTyreseも絶対に本作で終わってた。けど、Tyreseはそこまで器の小さい男じゃない。だからこれだけのファンがついて、これだけの深みを持ち得てる。一番の山場は他にも書いてるように6:Load You Control Meです。

今まで逃げたことが1度もない
そう言いきれる男じゃないとこのLoad You Control Meは歌えないと思う。そして1,2曲目を歌うのでさえ「逃げない」という中に入る事なんだろう。殆どの女性の心に届かない曲だけど、僅かな女性はこの曲に立ち止まるのかもしれない。そして「喋ってもないのにreally love youっていうのは、ある意味、相手をバカにしてる」って実感するのかもしれない。だとしたら彼のSoulも救われるのだが。。一番凄いのが8:What am I Gonna Doです。このジャケに一番似合う曲。以前に「自由になったのを喜ぼうと思っても、当然だった指針がなくなった事に、途方にくれてる。そんな面をストレートに歌っているのが1番好きな理由」と書いたけど、やっぱり歌詞としては違うんだよね。最初のうちは喜びも載る。けど、曲が進むに連れて「何処にも行けなさ」が強くなってくる。この曲は実際は、

数年たってお互い素直な笑顔が出る相手に出会った後に、
「あれ?俺って新しい恋愛を初めていいの?」って自問自答する


そんな姿が浮かぶ。この叫び様はどうみても別れて1年以上は経過してるのにね。なのに自問自答してる。そんな姿はTyreseらしいと思う。けど、こんなに拘ってたら新しい女性も気づくかもしれないし、そしたらどうするの?って思う。けど、Tyreseは正面から答えるんだろうなぁ。

遠景を塗りつぶしてないだけだよ
改めてこの曲を聴きこんで、彼ならこんな風に答える気がした。確かに彼が拘るWattsにしてもそうだと思う。ロス暴動の時ってまだ小学生ぐらいじゃない?なのに、彼はずっとずっと拘ってるんだよね。確かにアメリカの歴史の本を読んでて、Watts地区は古くから何度も黒人による暴動が起こった場所という事実を知った。本田創造著「アメリカ黒人の歴史」のP227には、その5日後の11日にはアメリカ史上最大規模の黒人暴動が、ロサンゼルスの黒人居住地区ワッツで発生したとある。
ロスの低所得者住居地域の筆頭になるのかな? ここら辺はあまりちゃんとは知りませんが、そういう歴史が積み重なった地区なのだろう。 そこで育ったTyreseはこのジャケのようにずっとWattsタワーの先に黒人の歴史を眺めていたのだろう。それがTyreseにとっての過去との繋がり方なんだろう。結局の所でこんな遠景への拘りが、彼の幅と深みを作ってる。それは対象が民族だろうと女性だろうと変わらないか。


けどねぇ、こう言われたら相手の女性は辛いだろうなぁ、、、って思う。そりゃTyreseの態度を見てれば相手と完全に関係が切れているのは誰でも分かるよ。けど、遠景でも存在してる事に拘ってるんだから。まともな女性なら「遠景だろうがなんだろうが塗りつぶしてよ」とは流石に言えないし、言いたくないだろうなぁ。そんな意味では、この言葉はなかなか反論が出来ないと思う。けどね、やっぱり全ての拘りが本人にイイ意味をもたらす訳じゃないと思う。こちらにも書いたように、実は「決算表が赤字な事に納得がいかないだけってのもあるからなぁ。そんな意味では、

遠景には「心の遠景」と「時間の遠景」があるわ。貴方はどちらなの?
って聞ける女性ならTyreseとずっと一緒にいれるかもネ。こう言われた時にTyreseがどう答えるかは結構知りたかったりもする。その答えは3作目にあるのかな?それは本当の所、分かりません。究極的には本人自身にも分からないと思うな。だから

たとえそれが「時間の遠景」であっても、私が「心の遠景」まで持っていく
って言い切れる女性だけが真の答えを掴めるのかもネ。よく男も女も「昔の相手の影を消す」って思いたがるものだけど、それは答えとしては二番目以上にはなりません。


ちなみに、続く9:Flingは凄く聴きやすいUP-Middleです。JD嫌いの自分としては11:Off The Heezyはパスしたいのだが、ラフさがよく出てる。後半のUPで一番イイのは11:Get Up On Itじゃないかな。この3曲が一番売れ線だと思う。12:HouseKeepingは一転して落ちついた曲。こういう一息つく曲を聴かせるからアルバム全体のレベルが高くなると思う。インタルードの13:I Wrote A Song About Itもかなりナイス。

超一流のアイドルだったTyreseがなぜ歌手を目指したのか、その答えがこの曲だと思う
ここまでストレートに歌う意味を掲げた歌詞を自分は他に知らない


続く2曲はホントに名曲。よく「大きく手を広げた曲」って言うけど、Ginuwineのように大体は「イマイチ」って言う事が多い。けど、14:For Alwaysは別格です。2:19付近のYehhhとかホントにナイス。極限まで歌い込んでる。実はこの曲が一番吼えてると思う。それこそがTyreseの光だと思う。そりゃねぇ、女性を非難した2曲目が一番吼えてたら、やっぱりヤナ奴になっちゃうよ。

15:Bring Back My Wayも凄い。トコトン泣き声で、What am I Gonna Do以上に全開にしてる。ガンガンに戻ってきて欲しいって歌ってるのに暗さがなくて、不思議と次の大きな風景が浮かんでくる。たまに、「ここまで歌い込んだら、次の出会いがあると思う」って書くけれど、この曲はすでに日が昇り始めてる気もするや。


ずっと処女作の頃の奥ゆかしさと、はにかんだ笑顔が好きだった。2作目での本作ではその奥を全て全開にしてる。本作の価値は聞き込むことに出てくるから。男性だろうと女性だろうと興味がある人はぜひ向き合って欲しいと思ってます。


ということで、この遠景を大切にする面が真の核の気がして、R&B-Timeで取り上げる事にしました。あんまりすると周回遅れの恋愛ばっかりになると思うんだが、彼はそんなの気にしてないんだろうね。

タイトルを「心の遠景」にした一番の理由は、8:What am I Gonna Doじゃないです。この曲だけなら両方あると思うから。やっぱり彼の生き様であり、やはりBring You Back My Wayです。こんだけ「戻って欲しい」って叫んでる曲だけど、それを通り越してこそ「心の遠景」になると思う。


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