Mario Winans
"Story of My Heart"
ナイーブで明るいSlow
[2004/05]

最近スマッシュHIT中のMario Winansの"I don't Wann Know"はイイ曲だと思う。だから2作目を買いました。けど、聴き込むうちに、棚で埃を被ってたこの処女作の方を聴く気になってきた。2ndは確かに売れたアルバムだけど、Mario自身が表現されているのはこの1stだと思ったから。改めて取り出して聴いてみると2作目よりも本作の方が傑作だと思う。それが本HPの結論です。

数年前、Carl Thomasの処女作をかなり気に入って、曲の多くをプロデュースしてたMario Winansの事が気になった。だから中古屋でこのアルバムを見つけた時はすかさず買いました。けど、兄貴のBeBe Winansと比べると普通過ぎる声にちょっとマイナス。それにこのジャケだからなぁ。

やるせなさ全開
としか言い様のないジャケット。特に裏ジャケは・・・。狭い壁に挟まれて手をついてるんだもん。閉所恐怖症の反対の、閉所親和性全開の心象世界に1歩引いてしまったです。数回流して、ガツンとする曲が無かったと感じたのも大きな理由。だから、「B級ナイーブシンガー」扱いにしてた今までだったのですが・・・

兄貴のBeBeとこのジャケを横に置けば、すごくいいアルバムに成ってる事にやっと気づきました。この世には明らかに「ナイーブ」な志向性を持った人がいる。けど、SlowはどれもMellowなんだよね。どっちらかと言えばH寄りの空間が多い。Maxwellの処女作とかね。 SHAIの処女作はSweet&Swearだったしなぁ。一般的にもナイーブなSlowは昼には聴けない曲が多い。

112の処女作はピュアさを前面に押し出した、かなりの全方向アルバムだから、昼にピッタシの曲もあった。けど、全体的に寛いで聴ける曲は少なかった気がする。そんな意味でも、寛ぐ昼に何気なく流すナイーブなSlowって今まで自分は知らない。サディークの作るナイーブなMiddleは昼にピッタリだが、SlowになったらH系MellowかAnniversaryみたいに悲哀感全開だったから

そんな意味でも、Mario Winansのこの作品は持っていても損は無いと改めて思った。最初に聴いた時は「曲の違いが殆ど無い」と思ったけど、今は1曲毎に彼の表情が見える。そういう進歩があるから、聴き込むのを辞めれないんだよネ。

遠くからみたら凪のような湖でも、岸まで行けばさざなみに浸れる
喩えて言えばこんな感じかな。こんな最初は殆ど違いが分らない場所から、細部の手触りまで区別できる地点に行く訓練をすれば、恋愛でもかなり意味が出てくると思う。そんな意味でも、興味を持った人はぜひ頑張って欲しいです。それだけの価値のあるアルバムだと思うから。

このアルバム、最初の3曲に浸れた人は全曲行けると思う。1:Prayerludeから2:Every and Thenで明確に明るさとナイーブさが出てる。3:Stay With Meもそう。揺さぶられるどころか、口ずさむまでも行かない程の曲だから、かなり押し気は無い。それが不満だった昔だったけど、今はそこになんか寛ぎがあるのが分かってきた。部屋で流してても「この曲、イイ曲だね」なんて絶対に言われないと思うし、そもそも気づいてもらえないとも思っちゃう。だから、このアルバムが売れなかったのもかなり納得する。けど、ジャケットでは「やるせなさ」全開なのに、歌は明るい。そのやるせなさはBeBeほど声に恵まれなかったから?とも思うけど、この明るさはMario Winansの核を見せてる気がするや。

4:Arouse Meもそんな感じ。殆ど波立ってないからこそ、このアルバムを聴き込めたらかなりR&B段位は上がるんじゃないかな。5:Don't Knowはタイトル通りの悲哀感が出てるから分かりやすい。逆に8:You Never Knowが一番明るいんじゃないかな。なんでDon't Knowよりも明るくなるのか、そこら辺が不明だが、やっぱり明るい。なんかこの曲、気になってます。恨み節がみじんにもないからかな。

10:My Sweetheartは低目でファットな曲。あまりSweetらしさを感じないのも不思議だったりする。12:It'S All GoodはMiddleに分類できるんじゃないかな。13:Don't Take Your Love Awayもタイトルのくせに凄く明るい。「あんたあんた真逆やん」って言いたくなる。

15:Love Is In The Airもタイトルから凄い。「恋は空気の中にある」って言い切るなら、それは凄く深みのある視線だと思う。普通は恋は心にあると思うんだけどね。けど、突き詰めるほどにそれは違うと思うな。けどなぁ、こういう期待を木っ端微塵にする歌詞なのがR&Bだからなぁ。 17:Take My Breath Awayも深い。普通はTake My Love Awayだろ。LoveじゃなくてBreathかぁ、、、あーーあーーーなんかMarioワールドが気になってしかたないぞ
こういう歌詞で光る部分があるのもナイーブ派の特徴ですね。

[2008/07]

久しぶりに本作を聴き直して、上の文章を手直ししてました。4年経過して、前以上に本作を傑作だと思ってます。このアルバムを気に入って、かつ、曲毎の違いを正確に押さえている人はかなりレベルが高いと思う。最初から本作に親和性がある人って、どんな人なんだろうなぁ、と今更ながらに思ってる。

本作は重くない。それがいい。
部屋で流してても軽いバックグラウンドミュージックの扱いになってしまう。それがいい。
それなのに意識的に聴けば聴くほど、価値が出てくる。これこそが深みだと思う。

基本的には、カップルで聴くアルバムじゃない。けど、別れた後でもない。だから、独り身の男に似合うアルバムなのだけど、やっぱりCarl Thomasのアルバムは冬か夜だから。昼に合うのは本作だけな気もする。

独り身の男に似合うのに、重くない。
気張ってないし、格好つけてないし、開き直っても無い。
この時点で、やっぱり傑作だよ。


4年前から言ってるように、最初の3曲を楽しんで聴けるかで合う/合わないが決まるアルバム。だけど、分りやすいのは4:Arouse Meです。arouseと言うだけのことはあるアクティブな感情がある。アクティブな感情が全面に出てきているのに、このトーンで纏まっているからこそ聴き易いアルバム。だけど、追っかけるとmarioなりのシャウトもある。2ndの人工増幅器を通った後のような感情よりも、こちらの方が個人的に好きです。

5:Don't Knowは一転重い地点なんだけど、やっぱり明るさはあるんだよね。兄貴のBeBeほど歌手としての独自性はないけど、曲作りの才能は間違いなくある。曲作りの上手さをもって、どんなフェーズの曲も、最終的には聴き易いレベルになるように、歌詞やメロディーや曲を調整してる。それがたまらなくいい。

6:Love Manはタイトルの割には幸福感を感じない。どちらかというと迷いかな。こういう微妙な地点が嫌いで、強引にでも白黒はっきりつけようとしすぎてたから、以前の自分には聴き込むのが難しかった。

8:You Never Knowから深度が高くなる。簡単に言えば終わった後のフェーズになるんだけどね。なのに、この8曲目は明るい。4年前にも書いたとおりアルバムの中で一番明るい。別れた後のYou Never Knowなんて「振られたことが納得いかない捨て台詞」と相場が決まっているのに、もっとピュアで明るい。だからこれだけ好きなんだね。こんな手触りの曲になるのが、人としての立ち位置の良さだと思うな。今から振り返るとこれが一番足りなかった。だから一番惹かれるのかもね。

9:Come Back Homeというタイトルの曲が存在するのが、リアルな恋愛の経過だと思う。その割には、重くないし、どちらかというと淡々と歌ってる。それが不思議。

10:My SweetHeartがアルバムの中で一番重いかな。曲調としてもそうだしね。けど、ミキシングの部分でバランスを調整している。そこがDeepさを全面に出すR Kellyとの違いかな。

12:It's All Goodは開き直ったかのような明るい曲。タイトル通りだね。けど、You Never Knowの方が好きです。この曲には深みがないと感じるもんで。11曲目がDon't Know Reimxだから、最初は10曲構成だったのだろう。それじゃあ曲数が少ないから、後から追加したんじゃないかな。12曲目以降には曲間の意味的な繋がりを感じない。単発で並んでいる感覚。

けど、15:Love Is In The Airは志向性が素晴らしい。この曲はアルバムの中の正しい場所に置くべきだ。多分、5から7の何処かになるかと思う。このタイトルの通り、Loveは心にある訳で無い。心にあるのは相手への想いであって、本当のLoveは2人でいる時の間の空気なのだ。この視点が一番正しい捉え方だと思う。けど、なのに、可愛そうな事に、この曲は聴いてて幸福感が伝わってくる曲でない。だから10曲目までの何処かに置いてもらえずに、後ろのオマケ扱いなってると思う。

きっと、別れた後に、やっとこの事実に気づいたのだろうね。だから、幸福感の無いLove Is In The Airになったのだろう。けど、だからこそ、僕はこの曲が名曲だと思う。別れた後に振り返って、やっと気付く。けど、それこそが前向きに生きている事だと思うから。

16:Loving Armsってタイトル的にはベットシーンなんだけど、Maxwellの方がもっとはっきりしてた。こういう部分で、Marioの良さと不十分さを同時に感じる。この壁を越せないと、確かに売れるアルバムにはならないのかもね。。

17:Take My Breath Awayが一番深い。love is in the airぐらいなら分っている人には分ってるレベルだけど、このBreathは深い。ここまで深いレベルはStevie Wonderレベルだと思う。二人の間の空気を突き詰めると、それは呼吸になる。呼吸をするタイミング。これこそが二人の間の空気を作っているのだと。

相手と一緒にいて、合う/合わないを規定するのは、共通の話題でない。
それは話しながら増やしていけばいい。
本当に大事なのは、呼吸のタイミングだから。
お互いが思いっきり心の奥から喋った後に、喋り疲れて一息つくタイミング。
そのタイミングまでが会った時に、本当の輝く笑顔が二人に出る。


けど、残念ながらこの曲は中途半端。テーマが深すぎて一個の曲として明確に切り出せてない。メロディーラインも良くない。けど、此処に気づいた時点で素晴らしいと思う。自分自身も、始めて知ったのがこの曲を聴いた時だから。それ以来ずっと気になっていたけど、1,2年前に会話系の本を乱読している時にもちょっとだけ見た。改めて本アルバムを聴き直しながら、これが正しい事を感じる。

人間の精神は肉体から完全に独立しているわけではない。相互に関連してて、それをとめる事はできない。恋愛が終わって辛い理由の中には、呼吸のリズムが付き合っていた時と変わらない面もあるのだと思う。だからこそ、別れた後に、日々の習慣だけでなく、その根っこの呼吸のリズムも意識的に変えようとした方がいい。ここまでの直感を踏まえて出来ている曲だけど、残念ながら曲としては傑作ではない。メロディーも終わり方も中途半端。それが凄く残念で。もしMario Winansが、この曲を突き詰めて、傑作曲を作れたなら、Brian Mcknightの1stのレベルを超していただろう。Stevie WanderのInnervisionsに並ぶ傑作になっただろう。そこまで感じたのは始めてだけど、それだけの射程がある作品。


ここら辺を明確な形として切り出している曲ってあるのかな??
もし知っている人がいたら教えてください。


2007年にHPを閉じて以来、一番、感銘を受けた作品。
本作をそんなに誉める人は日本に一人かもしれないけど、love→air→breathのリンクを見つけて曲として明確に切り出したのは彼だけだと思う。この深さは All is Fair in Love,All in Love is Fairと同じ地平線にある。



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